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「老いて益々、盛ん」

 健康寿命を延ばすには?

2023年08月16日

社会・生活

主席研究員
竹内 淳

 筆者も56歳となった。「誕生日おめでとう」と言われても、うれしくないのは当然か。還暦(60歳)まで残すところ4年。20代の頃は、還暦と言えば、「おじいちゃん」、ひいては「高齢者」と思ったものだが、待てよ、自分も間もなく高齢者なのか。そんなことは無かろう(と自分では思う)。周囲に還暦を迎えた先輩は大勢いるが、いずれも元気極まりない。

高齢者とは

 そもそも高齢者とは、何歳からを言うのだろう。経済統計では15~64歳を国内の生産活動を中心となって支える者として、「生産年齢」と呼ぶことが多い(注1)。経済協力開発機構(OECD)の定義と整合的だが、そこでは65歳以上の人口が「高齢者依存人口」と分類されている。そうした事情もあってか、これまでは65歳以上を高齢者と位置付けるのが一般的だった。

 しかし、政府のアンケート調査(注2)では、「自分を高齢者だ」と感じる人は60代で4分の1に過ぎず、70代でも6割。驚くことに80歳以上でも、高齢者だと感じていない人が1割いる。

5~10歳は若返っている

 生物学・医学的にみても、日本の高齢者は過去20年間で5~10歳は若返っているとの指摘が存在する。知る人ぞ知る話だが、漫画「サザエさん」の磯野波平は54歳という。当時のサラリーマンの定年が55歳で、その間際という設定なのだ。しかし今見れば、波平さんは60代後半といったところではないか。

 こうした状況を踏まえて、日本老年学会・日本老年医学会は、2017年に「75歳以上」を高齢者の新たな定義とするよう提言している(注3)。そして政府の「高齢社会対策大綱」(注4)においても、「65歳以上を一律に『高齢者』と見る一般的な傾向は、現状に照らせばもはや現実的なものではなくなりつつある」と記されている。

平均寿命と健康寿命

 ところで日本人の平均寿命は2022年時点で、男性が81.47歳、女性が87.57歳だ。ちなみに筆者(男性)の年齢の平均余命は27.50年ということだ。「それだけ」と考えるべきか、「まだ先が長い」とみるべきか。世界保健機関(WHO)によれば、日本人の平均寿命は男性が世界2位、女性が同1位だという。素晴らしいことだ。

 しかし、平均寿命が長くても、健康でなければ幸せとは言えない。医療や介護の費用がかさむだけだ。そこで最近、注目を集めるのが「健康寿命」だ。

 健康寿命は自己申告、すなわちアンケート調査を基にした「健康上の問題で日常生活に制限のない期間の平均」である。2019年時点では、男性が72.68歳、女性が75.38歳だった。10年と比べると、その延びは男女ともに平均寿命の延びを上回っている。

「ピンピン、コロリ」を実現

 すなわち、健康上の理由で日常生活に制限がある「不健康期間」は縮小しているのだ。

 都道府県別のランキングを見ると、健康寿命が長いのは、男性が1位大分県、2位山梨県、3位埼玉県。女性は1位三重県、2位山梨県、3位宮崎県である。静岡県も男女共に5位と健康長寿県だ。

 ここで非常に興味深いのが、都道府県別にみて健康寿命が長い地域ほど、不健康期間が短い傾向がうかがわれることだ。理由は不明だが、男性より女性にその傾向がはっきりとしている。健康寿命が長い地域の方が、いわゆる「ピンピン、コロリ」が実現出来ているということだ。

図表図表健康寿命と不健康期間の比較(出所)都道府県データを基に作成

健康で長生きの秘訣

 それでは、どうすれば健康で長生きができるのか。それが簡単に分かれば、苦労はしないし、おそらくはいろいろなことの積み重ねなのだろう。そう断ったうえで、働く(働き続ける)ことが、健康の維持(あるいは改善)につながるとする分析が幾つも存在することを指摘したい。

 もちろん健康だからこそ、働けるという側面もあり、労働と健康の因果関係を証明するのは難しい。それでも例えば、いささか古い資料で恐縮だが、厚生労働省は2012年の「労働経済の分析」において、就業率が高い都道府県は将来の医療費が低くなる傾向を指摘している。

図表65歳以上就業率(2000年)と1人当たり後期高齢者医療費(2010年度)の関係(都道府県別データ)(出所)厚生労働省

 働くことは、社会とのつながりを保つことを意味しているわけであり、毎日の生活に張りをもたらすものと言えるだろう。他方で、会社からの束縛やプレッシャーを伴うというマイナスの側面もある。

明日からも楽しく働きたい

 そう考えると、高齢者が働きやすい、ウェルビーイングが高まるような環境を社会として整備していくことが大切だろう。

 「健康は労働から生まれ、満足は健康から生まれる」。英国の医師であり経済学者で、「ペティ=クラークの法則」(注5)で知られるサー・ウィリアム・ペティが言ったとされる名言だ(いや、言ってなかったかも知れない。筆者が1時間近く探しても原文は見つからなかった)。真理のように思える。明日からも楽しく働きたいものだ。「老いて益々、盛ん」。そうありたいと思う。

 筆者は、5月よりリコー経済社会研究所で楽しく働いています。これからよろしくお願いします。

写真健康寿命(イメージ)(出所)stock.adobe.com


注1 大内尉義氏(国家公務員共済組合連合会 虎の門病院院長)によれば、65歳以上を高齢者とみなすのは、1956年にWHOが、65歳以上の人口が全人口の7%を超えると、高齢化しつつある社会という意味で「高齢化社会」とよぶことを提唱したことに始まるという(公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging & Health No.92<2020年冬号>の巻頭言「高齢者の定義再検討とその意義―企画のねらい」より)。

注2 内閣府・令和3年度「高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査結果」(2021年)

注3 日本老年学会・日本老年医学会「高齢者に関する定義検討ワーキンググループ」報告書(2017年)。なお、同報告書では、64~74歳を准高齢者と呼ぶよう提案している。

注4 政府・高齢社会対策大綱(2018年2月16日閣議決定)

注5 ペティ=クラークの法則とは、経済・産業の発展につれて、第1次産業から第2次産業、第3次産業へと就業人口の比率および国民所得に占める比率がシフトしていくことを指す。

竹内 淳

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